ゴジラをあなたがもし見かけて、たまたまあなたがだけが目撃し、なぜかというとそれはわからないが、とにかくあなただけが目撃し、というのはゴジラの頭の部分だけ少し海上からはみ出していて、海沿いの他の人は気がつかなかった、天気も悪かったし。だからゴジラをその頭頂部のみを見てゴジラだと判断したのもすごいが、恐らく水中の身体の部分も透けて見えていて、咆哮までは聞こえなくても、地鳴りとか、空気の揺れる感じとか波の荒立つ感じとか、とにかくあなたは「あ、これはゴジラだ」と思った。超巨大な未確認生物で厳密にはゴジラではないかもしれないが、そうとしか形容しようがない。ボキャブラリーにはない。周りを見渡してもやはり天気が悪いから誰も外に出ていない、こんな時に限って、だからあなたは何故かそんな危機的かもしれない状況にもかかわらず舌打ちをして、とはいってもゴジラからはだいぶ距離の離れている。
そこでだ、あなたは慌てて海上保安庁に電話したり、ネットニュースを検索したり、タクシーで家に帰ったりするのかもしれないが、ゴジラは微動だにしないので、まいっか、となって、電車で家に帰ることにする。で、家には同居人がいる、家族でも恋人でも友人でもなんでもとにかく友人がいて、あなたは第一声、ただいまも言わず、手も洗わずにその同居人のいるリビングのソファの上に寝そべっている同居人に向かって、
「ねえ、ゴジラがいた!」
と言う。絶対に言う。私は絶対という言葉を普段あまり使わないのだけれど、ここで「今日は一緒に餃子をつくって食べましょう」とはならない。だってあなたはゴジラ(らしき超巨大未確認生物)を目撃したんだから。
「ねえ、ゴジラがいた!」
この「ねえ、ゴジラがいた!」と誰かに伝えたくなる衝動がなぜ起きるのだろうかしら、と私はこの夏はそればかりを考えて毎日を過ごしていた。というと大げさだが、ことあるごとに、私がゴジラ的なものに遭遇して誰かにそれを共有したくなった時に、なんで人は誰かに共有したくてたまらなくなるんだろうと考えた。つまり「さっき、雷が鳴っていたよ!」、「太ったおじさんが半裸で縄跳びをしながら、まいばすけっとで会計待ちをしていたよ!」、「今日の昼に会社のトイレに大きな糞尿が詰まっていて、私の背丈くらいあった!」、とかとか、なんで相手と共有したくなる、というか自分の中だけで完結することができないんだろう、と考えていた。SNSにアップしたり、Xで呟いたりして、直接相手に面と向かって伝えるでなくても、自分の中には留めておけない。自分の中にだけ留めておけないのはなぜかと言うと、溢れるからなんだろうなあ、と私は考えた。だから共有したい、とか誰かに伝えたい、ではなくて、勝手に溢れてくるものなんだろうなあ、と私は考えた。ゴジラを目撃して「ねえ、ゴジラがいた!」と誰にも言わずに胸にしまっておける人が存在しないのは、溢れ出てくるように人間が設計されているそのメカニズムによるものなのか。
で、私が何をここで書きたいかというと、私の中から溢れてきた。「甘い生活」というフェデリコ・フェリーニの映画だ。フェリーニの映画を「道」を去年の10月頃、確か観た。それから「8 1/2」を観て、サントラを聞いてニーノ・ロータの楽曲をSpotifyでよく聴いていた。それで私はよく覚えているのは出張でチェコのプラハに行く機会が今年の頭にあって(それは色々な意味で感慨深い出張だった。いつか書く)12時間くらい、乗り継ぎも含めるともっとかかったその長距離フライトで私は2回目の「8 1/2」と初めての「青春群像」を観た。「青春群像」も自分に嵌る感じがあって、というか自分が嵌ったのか、嵌るということばではなく、自分が拡張されていく感じもあった。で昨晩、フェリーニの「甘い生活」を観たのは、私が学生時代過ごしたHullというイギリスの田舎町のサッカークラブがプレミアリーグに今年の5月に昇進して、数か月前にワールドカップシーズンだったから、そのHull Cityの試合もワールドカップのついでに観れると思ってDAZNの年間プランに3万円以上払って加入したら、ワールドカップの放映はしたが、プレミアリーグはUnextの独占配信らしく、私はその地元のHull Cityの試合を応援する為に、こんどはUnextに加入したが、DAZNのくだりもありサブスクの費用を少しでも回収したく、Unextでなにか映画を観ようと思ったのが昨晩で、その際にフェリーニの「甘い生活」を観たら、すっかり最後まで観てしまって、観終わってとんでもない映画を観たと思った、だからその事をここに書こうと思って、文京区小石川のカフェベローチェで350円のホットコーヒーを啜りながら書いているのだが、たまたま隣の二人掛けのテーブル席にふくよかなおば様が座り、暫くするとスーツ姿のダンディな男性と打ち合わせを始めた、その男性に見覚えがあって、見たら元サッカー日本代表監督の西野朗さんだった。